ケニア事業:Niko Nikoプロジェクトのその後(1)

2021年に実施したNiko Nikoプロジェクト。2022年10月、そのインパクトを知るために簡単な聞き取りをしました。その時の結果を報告します。実施と報告お願いしたのは、HANDSケニア事務所で長期インターンとして業務を開始したばかりの長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科(公衆衛生修士課程2年)の、原田梨央さんです。原田さんの新鮮な目で見たプロジェクトのその後を2回に分けて掲載します。今回はその1です。

[プロジェクトの概要とプロジェクト評価報告の背景]
Niko Nikoプロジェクトは、安定したビジネスを通して地域の若い女性たちの健康に長く寄与することを目的に、HANDSと地元の女性グループ(ボニス、エミリー、カロライン)、そして布ナプキンに関するプロジェクトを発足させた一人の日本人学生が始めたプロジェクトです。
活動報告にもある通り、皆さんからいただいた寄付により、2021年5月に直線縫いミシンとロックミシンがボニスの家に届けられました。このミシンは厳密な意味での寄付ではなく、支援者たちからのボニスたちのビジネスへの投資であり、10か月間かけて費用の12%をHANDSへ返却するという、「条件付き供与」という形で贈られました。これもビジネス研修の一環です。そして、多少の遅れはあったものの、ボニスたちは費用の12%を返却することができました。この評価レポートでは、当初から予定していた「ボニスたちから返却されたお金で、プロジェクト評価のための小規模な聞き取りを実施」した結果を報告いたします。

[聞き取りの対象と内容]
本プロジェクトの目的である「安定したビジネスを通して地域の若い女性たちの健康に長く寄与すること」を考慮し、起業した3人の女性たちと彼女たちから布ナプキンを購入し、実際に使用している3人のPrimary Schoolに通う少女たちにインタビューを実施しました。評価のポイントとして、インタビューの質問事項には、現在のボニスたちの活動の現状(顧客数・収入の増減など)、彼女たちの主体性の向上やマインドセット・チェンジ、活動の持続可能性、若い女性たちの間での布ナプキン普及率の向上や月経に関する課題の改善、その他の課題や改善点等を含みました。また訪問時に、会計やミシンの管理ができているかどうかも観察しました。ボニスたちには個人インタビュー、少女たちにはグループインタビューを行い、インタビュー時間はそれぞれ20~40分でした。

[起業した女性たちからの聞き取りの結果]
・活動の現状
顧客は徐々に増えているものの、新しい素材の購入や商品販売活動のための移動費、また1度布ナプキンを購入したら1年間使用可能なため、収入はその時の顧客の数によって幅があり、安定した収入の向上には繋がっていない現状が明らかになりました。商品の作成に関して、家事や他の仕事がない場合は1日に10ライナーを作成し、布ナプキン3つがポーチに入った商品は月に20個作成しているそうです。先月(2022年9月)の販売個数は7個ですが、私たちが訪問した際にボニスは制服の縫製を行っており、Niko Nikoプロジェクトで向上させたスキルを活かして、他の注文も受けていました。
彼女たちの活動としては、ボニスが毎週火曜日と金曜日に、若い女性たちに衣服や布ナプキンの縫製を指導していると話してくれました。彼女は、「RAHA KENYAに研修に訪れてから縫製のスキルが向上した」と振り返り、他の女性たちに指導できる立場になったボニスを見て、誇らしい気持ちになりました。エミリーとカロラインもそれぞれ、学校やコミュニティの他の若い女性たち、特に金銭的余裕のない家庭や、教会での布ナプキン普及のためのプロモーションや教育活動を行っています。2人は、収入向上のため、ケリチョー県の知事と地域リーダーの女性代表にも商品のプロモーションに行く計画を立てていると話してくれました。
               仕事場でのボニス

また、私たちがボニスに先月の販売個数を尋ねた際、彼女はすぐにノートを取り出して具体的な数字を教えてくれました。ミシンには布がかけられており、研修で学んだ会計とミシンの管理はきちんと行われていることが観察されました。

  ボニスが見せてくれた会計ノート   布がかけられたミシン

・活動の持続可能性
Niko Nikoプロジェクトが終了して1年以上が経過しているため、彼女たちに現在の活動のモチベーションについても尋ねました。エミリーは、この質問に対してすぐに「私の子どもたちがモチベーションである」と話してくれ、彼女の子どもたちと彼女自身も布ナプキンの恩恵を受けていると話しました。カロラインは「私たちのコミュニティが助けられていると、自分も助けられていると感じる」ことが活動を続ける理由であることを教えてくれました。将来の展望について、3人それぞれが「ケニア全体で布ナプキンを普及したい」「学校やお店にまとまった個数を供給したい」「コミュニティ内だけでなく、町で大きなお店を持ちたい」「衣服を作ってコミュニティで売りたい」と真剣な表情で語ってくれ、彼女たちの活動のモチベーションは持続されているという印象を受けました。また、会計管理はボニスの役割であるものの、エミリーは、「デボラ(HANDSスタッフ)が教えてくれた会計管理は、ミルクを売るという他のビジネスにも役立っている」と話し、研修を通じて得たスキルを他のビジネスにも応用していることを知りました。
一方で、安定した収入を得られていないことは、課題であると感じました。交通費を減らすために、彼女たちは普段は個別で行動するなどの工夫をしていましたが、「現在直面している課題」を尋ねた際には、3人とも商品作成のための素材を買いに行く際や販売活動を行う際の交通費を挙げました。また、ボニスは週に2日間若い女性たちに対して縫製の指導を実施していますが、これはボランティアで行っており、布ナプキンを普及させたいという想いとビジネスとしての活動の間での難しさを感じました。さらに、ボニスたちが作る布ナプキンは1年もつと言われています。そのため、安定した収入を得るためには毎月一定数の新しい顧客を得る必要があります。マーケティングを担当しているエミリーは「新しく顧客を得ることはとても難しく、新しいマーケットを開拓するために高価なスマートフォンを買う必要があると思う」と語っていました。
            エマニュエルと話すエミリー
・太字活動を進める上での課題
プロジェクト実施地域では、ボーディングスクール=全寮制の学校に通っている学生がおり、その学生たちの間では布ナプキンの普及が難しいことが分かりました。ボーディングスクールに通う学生は、一定期間を学校で過ごすため、布ナプキンを学校で洗い、干す必要があります。ボニスは、「全員が布ナプキンを使っていれば何の問題もないが、この学校に通うほとんどの学生が使い捨てナプキンを使っているため、普及が難しい」と話していました。エミリーも、布ナプキンを普及させるうえでの課題として「ボーディングスクールに通う学生たちが、学校で布ナプキンを洗い、干すことを恐れている」ことを挙げました。しかし、その学生たちの中でも学校がなく家で過ごす期間は布ナプキンを使用する学生がいるなど、彼女たちの活動は少しずつ広がっていることを実感しました。                     (その2に続く)