ケニアでも新型コロナウイルス感染拡大防止のため学校が閉鎖されていた、昨年10月、HANDSケニア事務所が活動する農村地帯ケリチョー郡にて、コミュニティで若年妊娠に関わる様々な社会的立場にある人々を対象に、予防啓発のためのワークショップの中でフォーカスグループディスカッションまたは個別インタビューを行いました。対象としたのは、少女・少年・10代の母親・10代の子どもを持つ母親・10代の子どもを持つ父親・学校の教員・Chief/Assistant Chief・教会リーダー・コミュニティヘルスボランティア・薬局の薬剤師・伝統的産婆です。
なお、このワークショップは、公益社団法人 日本国際民間協力会(NICCO)様との共同申請による「私と地域と世界のファンド」からの助成金および、ケリチョー郡で青年海外協力隊員として活動されていた宇佐美様がHANDSの活動を支援するために絵画販売を通じて集めてくださった寄付金により、実施することができました。ご支援をくださった皆様、誠にありがとうございます。
上:若年妊娠の現状についての情報交換後、啓発ワークショップに参加する10代の母親たち
(於:Kejiriet小学校)
フォーカスグループディスカッションや個別インタビューでは、時代の変化と共に、家庭の経済的状況・少女間のピアプレッシャー(仲間からの圧力)・性教育の欠如・少年少女と親との関わり・避妊法へのアクセスなど、様々な要因が若年妊娠に寄与していることが示唆されました。
道徳的価値観・異性との交際・妊娠も、時代の経過と共に変化しています。
「昔は、親や祖父母が子どもに対して道徳的価値観を教えていました。最近では、一部の親は、おそらく不十分な収入やアルコール依存などの理由で自分自身の道徳的価値観を欠いています。(教員)」
「私たちの時代には、結婚前の妊娠は非常に稀でした。現在では、12歳の少女でも異性と交際しています。子どもが妊娠しても、母親は父親に知らせずに中絶させるかもしれません。(10代の子どもを持つ父親)」
家庭の経済的状況や少女間のピアプレッシャーに関して、食べ物や生理用ナプキンなどの生活の必需品やファッション・化粧用品などの贅沢品を購入するお金がないため、性交渉を行う少女もいます。「親が子どもに必需品を与えないため、必需品を得るために性交渉を行う少女もいます。(Chief/Assistant Chief)」
「子どもは、物質的なものへのアクセスという点でお互いを比較しています。現代の少女は、あまりにも多くのニーズを持っているので、貧困家庭の親はそのニーズを満たすことが出来ないかもしれません。(教員)」
少年少女への性教育に関して、多くの場合、親を含めた大人が子どもと直接的に話し合う役割を担うことができていません。
「多くの場合、大人が子どもと性的なことに関して自由に話し合うことは難しいです。多くの大人がこの役割を怠り、この役割を他の大人に任せています。現代の親は、子どもと性的なことを話し合う義務を怠っています。(教員)」
「ほとんどの親は、子どもと性教育について話し合うことは容易いことではないと感じています。これらの親は、常に自分の子どもとそのような問題について間接的に話しています。しかし、親が何を伝えようとしているのかを正確に理解していない子どももいます。(10代の子どもを持つ母親)」
「性教育に関して、友人・親・学校などから情報を得ています。このようなことを話し合うことが適切でないと考え、教えない親もいます。(少女)」
避妊法、特に緊急避妊薬や妊娠に関して、間違った知識を持つ少年少女もいます。
「性交渉をしたい時には、コンドームやモーニングアフターピル(緊急避妊薬)のような避妊法を使用するべきです。(少年)」
「男には女の子が生理中かどうか確認する責任があります。女の子が生理中であれば、妊娠するので性交渉をすべきではありません。(少年)」
親自身の行動や、子どもに対し責任ある関わり方ができているかという点にも問題があります。
「自身の責任を怠っている親もいます。これらの親は、子どものための時間がなく、子どもとの密接な愛着を持っていません。(教員)」
「親がしていることを真似している子どももいます。このような場合、問題に対処することは困難です。また、自分の子どもの行動を認識し避妊法の使用を勧める親もいれば、自分の子どもの行動に気づいていない親もいます。(教員)」
「親の怠慢です。親と親しい関係を築けていない子どもは自分の好きなようにするでしょう。(10代の子どもを持つ母親)」
「親にも責任があります。子どもの過ちや間違った行動を見過ごしてしまうような過保護な親もいます。そのため、子どもは、親のサポートがあるのでどのように行動しても許されると思うのです。(10代の子どもを持つ母親)」
また、ケニアでの性交同意年齢は18歳であり、親や教師たちは中高生の性行為自体を禁止しなければならないので、セーフセックスについて教えたり、少年少女に避妊具を提供したりするのが難しい現状があります。そのため、少年少女が性行為をもってしまう際、避妊具を使う可能性が下がってしまうと考えられます。
「少女たちは避妊法を使うべきではありません。(使うべきと言ってしまったら)少女たちにセックスを推奨することになってしまいます。避妊法で妊娠を防ぐことができますが、性病はどうでしょうか?避妊法には副作用があるものがあるので若いうちに使うべきではありません。(10代の子どもを持つ母親)」
※カッコ内は文意を推測してHANDS職員が補足したものです。
「親として、性病を防ぐことができない性交渉をさせないためにも、避妊法を使用しないように勧めています。(10代の子どもを持つ母親)」
「避妊法を与えるために子どもを病院に連れて行く親がいると聞いたことがあります。しかし、実際に見たことはなく、信じていません。(10代の子どもを持つ母親)」
また、新型コロナウイルス感染拡大防止のための学校や教会の閉鎖により、少年少女が性教育を受ける機会を失ったり、親から生活の必需品を買うためのお小遣いを貰えなくなったり、少女が政府から支給される生理用ナプキンを学校で受け取れなくなったりしています。
「学校と教会の閉鎖は、社会、特に子どもに悪影響を与えています。学校と教会は、きちんとした安定した生活に欠かせないものです。閉鎖によって、子どもたちは、これらの場の指導者たちからアドバイスを受ける機会を失ってしまっています。(教会リーダー)」
「学校が閉鎖されることにより、親からお小遣いを渡されなくなったにも関わらず、生理用ナプキンなどの必需品を自分で買わなければならない少女もいます。(Chief/Assistant Chief)」
ケニアでは、緊急避妊薬やコンドームが小さな薬局でも売られています。町のマーケットにある薬局の薬剤師によると、新型コロナウイルス感染拡大防止のための学校閉鎖の時期に特に緊急避妊薬の売り上げが伸びているそうです。
「以前は、緊急避妊薬が毎日平均5錠ほど売れていましたが、今(昨年10月)は毎日10錠ほど売れています。通常、休み明けで学校が再開されると需要が高まりますが、今はこの時期(学校閉鎖中)に需要が高くなっています。(薬剤師)」
これらの現状を踏まえ、今後必要となってくることについて、以下のような意見が多く聞かれました。
「少年少女は、コミュニティからのアドバイスを必要としています。(10代の子どもを持つ母親)」
「少女が他から探さなくてもいいように、親から生理用ナプキンが提供されるべきです。親・友人・教員から指導やカウンセリングも必要です。(少女)」
ここで生理用ナプキンの提供が話題に挙げられたのは、少女が経済的な事情等で生理用ナプキンを入手できないことが若年妊娠の一因であるという認識が、少女、教師・親たちの間に広くあるからだと思われます。地域で少女を買春し、結果的に少女を妊娠させ男性が、生理用ナプキンの提供を見返りとして使っていると言われているからです。
ワークショップの中で行ったフォーカスグループディスカッションや個別インタビューでは、若年妊娠につながる、地域の少女たちの性の健康上の問題の数々が明らかになりました。若年妊娠を減少させていくためには多くの課題があり、また、生活の必需品である生理用ナプキンを入手することが、このコロナ禍で一層困難になっている少女もいます。経済的な事情でナプキンを入手しづらい少女/女性のため、HANDSは、長く使えて長期的に考えると経済的な布ナプキンの普及活動を以前から行ってきました。まずは今、その普及活動を一段と活性化させ、私たちHANDSが現段階でできることから、一歩ずつ、地域の少女/女性たちの性の健康を向上させていきたいと考えています。
地元女性グループの自立的な布ナプキン製作販売を可能にするため、このプロジェクトに深い関わりを持つ1人の日本人大学生とHANDSが共同で進める事業、Niko Nikoプロジェクトのため、現在クラウドファンディングにより寄付を募っています。皆様からの応援により、このプロジェクトを実現できればと考えておりますので、クラウドファンディングサイト上でのご支援やこのプロジェクトについての情報拡散など、皆様の温かいご助力をどうぞよろしくお願いします。
https://camp-fire.jp/projects/view/356851